肺炎の特徴
肺炎は、呼吸によって体内に侵入した細菌やウイルスが肺に感染することにより、高熱・咳・痰など風邪に似た症状を起こす病気です。風邪だと思って放置すると、細菌やウイルスの感染が肺から全身に回り、敗血症など重篤な症状を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。特にご高齢の方や免疫力の低下した方が発症すると、重症化し命に関わる危険な病気でもあります。2020年の時点で、肺炎は日本人の死因の第5位となっています。
初期は風邪と似た症状となるため、自己判断せずに受診し、適切な治療を開始することが重要となります。
肺炎の原因
肺炎は、原因となる細菌により以下のように大きく2種類に分類されます。
細菌性肺炎
肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、クレブシエラ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌など
非定型肺炎
マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ菌
肺炎の初期症状は熱や咳が続くといった、風邪と似た症状のために区別がつきづらいですが、細菌性肺炎の場合は、高熱が続く、脈や呼吸が速い、風邪のような鼻水・咽頭痛がないといった特有の特徴があります。また、非定型肺炎では、痰が少ない激しい咳を伴うなどの特徴があります。治療に使用する抗生物質がそれぞれ異なるため、事前に原因を特定することが重要です。
脳卒中などを発症することで食物の飲み込み力が低下し、食事や唾液を誤嚥(ごえん)することで誘発される誤嚥性肺炎や、他の病気の治療で一時的に免疫力が低下することが原因で発症する日和見(ひよりみ)感染症などもあります。誤嚥性肺炎の場合は、口の中にいる大腸菌や嫌気性菌が原因菌となるケースが多いです。
肺炎の診断はどのように行うか?
問診によって肺炎の可能性が指摘され、聴診により肺雑音が確認された場合は、胸部エックス線検査・採血検査・喀痰検査を実施し診断内容を確定させていきます。CT検査が必要な場合は連携する医療機関をご紹介します
特に、5日以上高熱が続く、脈や呼吸が早いなどの症状があれば肺炎の可能性が高く、胸部エックス線検査・採血検査へと続きます。胸部エックス線検査では、肺炎を起こしている部分を画像で判断し、白く映ると肺炎と診断できます。採血では、白血球数の上昇がみられたり、炎症反応が高い値を示しているなどが肺炎の特徴になります。場合によっては、尿検査を行い、肺炎球菌やレジオネラ菌に感染しているか調べます(尿中肺炎球菌抗原検査や尿中レジオネラ抗原検査と言います)。また、喀痰検査によって、原因菌の同定を行います。ただし、喀痰検査は原因菌が判明するのには3~7日かかるため、症状や胸部エックス線検査、尿中抗原検査により原因菌を推定し、先行して治療を開始します。
肺炎と似た経過、エックス線・CT検査で疑われる病気として、器質化肺炎や好酸球性肺炎、薬剤性肺炎などがあります。また、中には肺結核や肺がんなど重篤な病気である可能性もあります。どの病気に該当するかは、エックス線検査や採血所見などとも合わせて、総合的に診断します。
当院では、まず胸部エックス線検査を行い、必要に応じて胸部CT検査や血液検査へと進みます。
もし肺炎と診断された場合は、肺炎の重症度を判別します。軽症〜中等症と診断された方は外来にて治療を行い、中等症から超重症と診断された方は入院治療を行います。重症度の判別は、年齢や血圧、意識障害の有無や酸素化の程度、血液検査結果などから総合的に判断します。
肺炎の治療は?
肺炎の治療は、抗生物質の投与が基本となります。
抗生物質には、病気の原因となっている細菌を殺す効果があります。使用する抗生物質は、病原菌の種類によって異なります。しかし、原因菌の特定には一定の時間を要しますので、診断初期の段階では、ある程度原因となる細菌を推定し、幅広い菌に効果が見込める抗生物質を用いて治療を開始します。これをエンピリック治療と言います。
細菌性肺炎の場合は、ペニシリン系抗生物質(ベニシリン系抗生物質:オーグメンチンやアモキシシリン)やセフェム系抗生物質(セフトリアキソン点滴)、ニューキノロン系抗生物質(レボフロキサシン)などを用いて治療を行います。
非定型肺炎の場合は、マクロライド系抗生物質(アジスロマイシンやクラリスロマイシン)やニューキノロン系抗生物質(レボフロキサシン)などを用いて治療を行います。一般的な投与期間はおおよそ5~7日間となります。
肺炎治療でよく使用される
抗生物質
肺炎 | 種類 | 商品名 | 投与方法 |
---|---|---|---|
細菌性肺炎 | ペニシリン系 |
オーグメンチン、 サワシリン |
内服 |
セフェム系 | ロセフィン | 点滴 | |
ニューキノロン系 | クラビット | 内服・点滴 | |
非定型肺炎 | マクロライド系 |
ジスロマック、 |
内服 |
ニューキノロン系 | クラビット | 内服・点滴 |
肺炎の治療で注意すべきことは、抗生物質の服用を自己判断で中断しないことです。症状が改善してくると自己判断で治療を中断してしまう方がいらっしゃいますが、それにより肺炎がぶり返したり、抗生物質に耐性のある耐性菌を誘導してしまう恐れがあります。そのため、特に副作用などが出ていない限り、処方された抗生物質は日数分を飲み切るようにしましょう。
また、抗生物質によって原因菌を排除する治療と同時に、肺炎の症状を緩和するための対症療法も行います。具体的には、発熱があれば解熱剤を、激しい咳を伴う場合であれば咳を抑える薬を使用します。しかし、咳は原因菌を体外に排出しようとする生理的反応でもあるので、無理に咳を止めることは控えた方が良いという意見もあります。
近年では、耐性菌という抗生物質に耐性を持った菌が見つかっています。代表例としては、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)やβ―ラクタマーゼ非産生ABPC耐性(BLNAR)インフルエンザ菌などが挙げられます。これらの菌が検出された場合は、抗生物質の種類を変更したり、複数の抗生物質を併用するなどの治療を行います。
肺炎の予防
肺炎の予防には、以下の点について気をつけましょう。
- 日々の感染予防(マスク・手洗い・うがい)
- 常に口の中を清潔に保つ(歯磨きや歯周病予防)
- ワクチン接種をする(肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチン)
特にワクチンの接種が有効です。肺炎球菌ワクチンはインフルエンザワクチンと併せて接種することで、肺炎による死亡率や入院治療の割合が減少するというデータもあります。65歳以上のご高齢の方は菌に対する抵抗力も低下しますので、ワクチン接種を推奨しております。